Mino-Washi × Iron

2015年から故郷岐阜県の伝統工芸品・美濃和紙に、鉄粉や錆、金箔や金糸などの金属素材を付着させる独自の手法を用い、平面作品の制作を行っている。

鉄彫刻の制作過程で出た鉄粉を美濃和紙に撒き、霧吹きで水をあげる。すると次第に鉄粉が錆びを帯び始める。それを3〜4週間かけて丁寧に育てていく。その時々の湿度、気温、天候により鉄錆の表情がことごとく違う色、質感で生まれてくる。平面作品に取り組み始めた当初は、その時々の特性の違いに頭を悩ませた。

 

先ずは、作品の土台となる美濃和紙の選別からが、その問題のはじまりだった。

 

創作スタンスは、岐阜県の伝統工芸品であるユネスコ無形文化遺産登録の本美濃和紙を使用することと意に決し、その本美濃和紙に作品を表現していく意気込みで、2015年、ユネスコ無形文化遺産「本美濃紙」の技術を継承する本美濃和紙保存会会長の澤村正氏の工房(岐阜県/武芸川)に足を運んだ。

しかしその時、澤村氏から本美濃和紙の特質の話をきき、本美濃和紙の繊細さが金属素材を育んでいく自らの制作手法には合致しない現実を知る。東京に戻ったがやはり断念することが出来ず、何回も岐阜県武芸川の澤村氏の工房を訪ねた。

S__6815746.jpg
MinoWashi2.jpg

そして、とうとう金属素材に理想的な美濃和紙と出会うに至った。

それが現在までの平面作品の制作に使用してきた美濃和紙だ。

その澤村氏の美濃和紙は、原料の楮が原材料そのままに近い状態で紙漉きされて出来上がっており、ユネスコ無形文化遺産本美濃紙が10枚ほど重なるような厚口の美濃和紙である。

 

美濃和紙の柔らかく強靭である特質が金属との相性を良くさせる。

全国的に和紙を漉く技術は、「縦ゆり」だけで漉くことが多い。

しかし美濃和紙は、繊維をよく絡ませるために「横ゆり」の技術を加えている。横ゆりは縦ゆりの技術よりも複雑な操作であり、熟練の技術が必要となる 横ゆりと縦ゆりを繰り返し行い、繊維と繊維を絡ませることで紙面を平らに整えるとともに強さを増す。また、水に強く、通気性や保湿性も良いため柔らかな和紙は強固な金属をしっかりと包み込む。

応えるように美濃和紙にゆっくり滲んでいく錆。柔らかくて、なのに強靭な美濃和紙。とても相性の良い素材。

MinoWashi6.jpg
MinoWashi3

「和紙を漉く技術と金属を扱う技術というのは、和紙をつくる技術と和紙を生かす技術。お互いの技術の融合。美濃和紙と金属を生かした表現をしてほしい」

75年間。美しい水が流れる美濃の国里山奥で、紙を漉くことに生涯を捧げてきたという澤村氏の言葉。

 

美濃和紙を自身の制作に使用するために、自らの足で澤村氏のもとに通った6年程の間。

この伝統工芸を受け継いできた、そして受け継いでいく方々に出会ったことは、職種は異であれとも無から物をつくり上げていくという同じ視座に立てば、私にとってはとても深い意味を学ぶことのできた月日だったと、多々今改めて思いかえす。

平安時代から古の伝統・紙漉きを生業として生きる職人たち。その道の信念と哲学、造ることの苦難への生き様、伝統を継続していく為の技術、それらの痛みに近いしかしながらも彼ら伝統工芸の精神の誇りであろう想い、それらをすべて表現する遥かに静かに美しい美濃和紙。

私自身も大切にすべてを包括して制作していきたいと思う。

寂drawing.jpg

--------
ⅰ 久米康生『美濃紙の伝統』